デイヴィッド・ボウイを翻訳する(6):「1984 年の凶暴なる顎門」



Someday they won't let you, now you must agree
The times they are a-telling, and the changing isn't free
You've read it in the tea leaves, and the tracks are on TV
Beware the savage jaw
Of 1984


いつか
いつの日か
奴らはお前の自由を奪うだろう
んで、お前はそれに同意するしかない
時代は変わる、じゃなくて
時代は告げている
変化は無料(タダ)じゃないんだと
変わるにしても先立つもの(=金)が要るんだと
お前は茶の葉占いでそのことを読み取った
その軌跡がテレビで流れる

警戒せよ そは 1984 年の 凶暴なる顎門(あぎと)なり

They'll split your pretty cranium and fill it full of air And tell that you're eighty, but brother you won't care You'll be shooting up on anything, tomorrow's never there Beware the savage jaw Of 1984 奴らはお前のカワイイ頭蓋を割り それを空気でぱんぱんに満たす そして奴らはお前はもう80歳だと告げる だが兄弟よ、お前はそんなことには一切関心がない お前は何でもかんでも銃で撃ちまくろうとする そこには明日などない

警戒せよ そは 1984 年の 凶暴なる顎門(あぎと)なり

CHORUS Come see, come see, remember me? We played out an all night movie role You said it would last, but I guess we enrolled In 1984 (who could ask for more) 1984 (who could ask for mor-or-or-or-ore) (Mor-or-or-or-ore) やぁやぁ、こっち来て 顔を見せなよ ほら、僕だよ、覚えてる? 昔、僕らは一晩中かかって 一巻の長大なる映画を上映したよね あの時、これはまだずっと続くのだと君は言ったね

だが思うに 僕らはその時 自らを書き込んでしまったのだ 1984 年の中に

(おぉ、誰がそれ以上のものを求めよう?)

1984 年(という一巻の書物)の中に

(おぉ、誰が一体それ以上を求めよう?)

I'm looking for a vehicle, I'm looking for a ride I'm looking for a party, I'm looking for a side I'm looking for the treason that I knew in '65 Beware the savage jaw Of 1984 僕は「ヴィークル」を探している つまり(自動車とか電車のような)「乗り物」を探している 僕は「パーティ」を探している つまり(右とか左とか中道とか、自分が支持すべき政党の)「側」を探している 僕は1965年に自分が知っていたような反逆行為を探している

警戒せよ そは 1984 年の 凶暴なる顎門(あぎと)なり

CHORUS 1984 1984
注: 上記で引用した画像はここ(スポンサーは Trojan レコード?)にあったロゴ。

訳者付記

アルバム「ダイアモンド・ドッグス」の収録曲はどれも翻訳が極めて難しいが、本歌詞の「難所」としては、"We played out an all night movie role"、とサビの決めぜりふ "Beware the savage jaw of 1984" がある。"movie role"は「movie roll==映画のフィルム一巻(ひとまき)」の洒落と解釈。「映画の役」だとつまんない。あと、"savage jaw" じゃなく "savage lure"'っていう聞き取りもあったけど、ここは "jaw"(顎)でなきゃ、この詩自体の格調が台無しだ。英語には "jaws of death"という慣用句がありまして、通常「死地」と訳されるのですが、『オーランドー』(ヴァージニア・ウルフ、杉山洋子訳、ちくま文庫)の 229 ページではこれが「死のアギト(同所に書かれていた漢字は「月偏」に「顎」の左側だったけど、こんな漢字ある?)」と訳されているのを発見。即パクリました。但し、jaw は単数なので「片顎」(ないし「下顎」?)が正解かも。

そう言えば "Word on a wing" も「片翼だけになった言葉」だ。"on a wing and a prayer"=「(片翼だけになった飛行機が操縦者の祈りによって辛うじて飛んでいることから)やっとのことで・運にすがって」というイディオムがあるのを最近になって知りました。

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