ビートルズを翻訳する(8):せやから、ボク、火ィつけてやったんすわ




もう時効みたいなすっごい昔の話なんですけどね
ボク、女の子ナンパしたんですわ
てゆうか、実際には、その女の方からナンパしてきよったんすけどね

その子、会っていきなり自分の部屋見せてくれよったんすけどね
その部屋っちゅうのがこれが壁も床も天井も全部板張りになってて
「これって良くない〜?(語尾上がり)使ってるの全部ノルウェー材だし〜」
かなんか言うてね、その子えらい自慢しよったんですわ

で、「今日泊まっていきなよ〜」てその子が言うから
あぁ、こらもう絶対すぐやらしてくれるわ〜思て
アタマん中じゃいろんなこと想像してコーフンしてんねんけど
表面上は「うん、ありがとぉ」かなんかゆうて
めちゃめちゃ紳士的な態度取ってたんすよ
そんで、「その辺に座っといて〜」てその子が言うから
部屋ン中見渡したんすけど
イス一個もないんすよ!
しゃあないから絨毯の上に座り込んで
ワイン飲みながらなんやかんやしゃべってたら
もう夜中の2時ですわ
やぁ〜っと
「そろそろベッドの時間ね〜」ってその子が言うたんですよ
もうね、こっちはいいかげん待たされて
やる気満々ですからね
そこでいきなりズボン脱ごうとしたら

その女
「は?アタシ、明日仕事で朝超早いんですケド〜?」ゆうて
げっらげら笑い出しよったんすよ!
こっちはもう目の前真っ暗ですわ
「あっそう、いや〜、ボクはめちゃくちゃ暇なんやけど〜」かなんかゆうて
なんとかしてやらせて貰おうとしたんですけどね
その女、「てゆうか〜、アタシ、明日超朝早いんデスケド〜」の一点張りですわ
何かだんだん口論みたいになってきてしもてね
とうとうその子「アタシもう今すぐ寝る!」
ゆうてブチ切れですわ
ボクはリビング追い出されてしもて
結局、ボクが寝たんは風呂場ですよ!

目が覚めたときには
もうその子はおらんようになってて
なんかボク
だんだん腹立ってきてしもてね
お前、やらせる気ィなかったんかい!
やらせる気ィないんなら
最初から男を自分の部屋に呼ぶなっちゅうねん!

ホンマにもう頭きてしもて

せやから

ボク、火ィつけてやったんすわ

なぁーにが 「これって良くない〜?(語尾上がり)使ってるの全部ノルウェー材だし〜」 じゃあ ボケェ、カス ざまぁみさらせ!てなもんですわアハハ...
I once had a girl, or should I say, she once had me... She showed me her room, isn't it good, norwegian wood? She asked me to stay and she told me to sit anywhere, So I looked around and I noticed there wasn't a chair. I sat on a rug, biding my time, drinking her wine. We talked until two and then she said, "It's time for bed" She told me she worked in the morning and started to laugh. I told her I didn't and crawled off to sleep in the bath And when I awoke, I was alone, this bird had flown So I lit a fire, isn't it good, norwegian wood.

訳詞解説:Bob Dylanの"4th Time Around" (=『4度目』)は、ビートルズの "Norwegian Wood" に対するアンサーソングであるどころか、前代未聞の恐るべき「マーダー・バラッド」だ


「てっきりやらせてくれるものと思ってた女が、土壇場でやらせてくれなかった。そのことに逆上した男は、腹いせに凍った鶏肉の塊を女に向かって投げつけた...」っていう与太話自体がそもそも笑えないのに、それをTVで放送するってのは道義的にどーなのよって物議を醸しているらしいけど、あれ?似たような話をどっかで聞いたことあるよなー、と思ってたら。これですよこれ、ビートルズの『ノルウェーの森』。 あの品行方正で真面目な愛と平和のラブアンドピースのビートルズが、そんな性差別的な歌を歌うはずがない、なんかの間違いだろ、と思う人も多いかもしれない。だがしかし、 ビートルズ中後期には、ボブ・ディランがカントリーミュージック(「ヒルビリーソング」とも呼ばれる)から継承したミソジニーに影響されたと思われる女性憎悪的な歌詞がいくつかあるのです。"Norwegian Wood"以外では、"Maxwell's silver hammer"、"She's a woman"、"Get back"、"Run for your life" などがこれに相当します。ウソだと思う方は、これらの歌詞を良く読んでみられよ。

逆に、ディランの"4th Time Around" は、ビートルズの "Norwegian Wood" に対するアンサーソングであるというのが定説なのだそうだが、"4th Time Around"の歌詞をよぉ〜く読んでみたところ、ひょっとしてこの曲は、単なる「男女の諍い」や「男の浮気」をテーマにした歌ではないのではないかという疑問が湧いてきてしまったのですね。

"4th Time Around"の詩は一見謎めいています。この詩は、男女の激しい喧嘩から始まります。女:「あんたの言葉は聞くだけ無駄、あんたの言うことは全部ウソ」、男:「黙れ、このつんぼ(deaf)が」。すると女は男が目を逸らすまで男の顔を凝視する。「あんた、貰った分は返さなきゃダメでしょ?」と女は経済的な交換原理を主張する。だが男には返すべき物がない。そこで男は自分のポケットを探り、ガム一切れを女に渡す。女の部屋を叩き出された男は、自分のシャツを忘れたことに気付き、それを取りに女の部屋に戻って来る。女がシャツを返してくれるのを待つ間に、男は(どこかに?)立てかけてあった「車椅子に乗ったお前の写真」について理屈を付け、何とか言い逃れをしようと試みる。男はジャマイカ産のラム酒を飲ませろと女にねだるが、それを「ダメよ」と拒否されると、「ハッキリ聞こえねぇぞ、(俺がやった)ガム出してからしゃべれよ」と言う。それを聞いた女は真っ赤になるまで絶叫したかと思うと、なぜか床に倒れて(死んで?)しまう。男は女(の死体?)に覆いを被せると、女の部屋の引き出しを物色し、見つけた「それ」(ラム酒?それとも金?)を自分の靴の中に入れると、それを持って「お前」のもとへと向かう。『お前は俺を部屋に招き入れると、すぐに俺を愛してくれた。お前は時間を無駄にしなかった。俺も長くはかからなかった。俺はお前の「股」(crutch=「支え、松葉杖」)なんか求めなかった。だからお前も、俺の支えを求めるな(=俺を松葉杖代わりにするな)』。これって、ど〜ゆ〜こと?

この詩の登場人物は「俺」(I)、「彼女」(her)、「お前」(you)の3人であり、もし字義通りに取るならば、「彼女」は聴覚障害者であり、「お前」は歩行障害者(のプロスティチュート?)である。また、この詩は、一人称の「俺」(I)が三人称の「彼女」(her)を捨てて二人称の「お前」(you)のもとに転がり込んだ顛末を「お前」(you)に向けて告白するという構造になっているのだが、しかしなぜ「俺」は「お前」に対して、自分が過去に犯した犯罪をこれほど事細かに告白しているのだろうか?そして、そもそもタイトルの"4th Time Around"=『4度目』とは何を意味しているのだろうか?何が「4度目」なのか?「俺」が「彼女」と喧嘩した回数?それとも「俺」がこれまでやらかした浮気の(うち発覚した)回数?まさか。じゃあ「俺」が「お前」と get laidした回数?いえいえ、そうではありますまい。

えーとですね、私はこの詩のテキストをハゲシク検討した結果、以下の恐るべき結論に達しました。

タイトルの『4度目』とは、

「俺が女を殺したのは、これで4度目だ」

を意味している!

つまりですね、この曲は、一見そうは見えないのだけれど、実は「マーダー・バラッド(murder ballad)」なのですね。そう考えるとですね、この謎めいた歌詞にもいろいろと合点がいくわけですよ。例えば、「俺」が「彼女」に渡した最後の一切れのガムは毒入りだった、とすれば、女がなぜいきなり真っ赤になって床に倒れてしまったのかも理解できます。そうすると、男がシャツを取りに女の部屋に戻ったのも実は計画的だったのではと思えてきます。なぜなら「4度目」と言うからには、「俺」は「彼女」を殺す前に、同じような手口を使って既に3件の殺人を犯しているってことになるからです。...いやはやなんとも、あたらめて読んでみると、この曲、女性憎悪もここに極まれり、てな感じの極悪非道ソングじゃね〜の?何歌ってんだよ、ディラン...。なんだか昔の山上たつひこの漫画(『イボグリくん』とか『メロンな二人』とか、誰も知らねーか)を思い出して、気持ち悪くなってしまった。

ディランがヒルビリーソングから継承した女性憎悪(ミソジニー)がいかに歴史的に根深いものであるかに関しては、『アメリカは歌う。:歌に秘められた、アメリカの謎』(東理夫 著/作品社 刊/2010年)の記述がとても参考になった。ビートルズの "Maxwell's Silver Hammer" は女性を次々とハンマーで殺害する男の話であり典型的なマーダー・バラッドのパロディだが、同書によれば、「女性殺し」をテーマとするマーダー・バラッドの起源は、アパラチア地方に入植してきたスコッチ・アイリッシュ系の人々に固有のエートスないしカルチャーにまで遡るとのこと。Led Zeppelin の初期の代表曲 "Dazed and Confused"に出てくる"The soul of woman was created below"(「神は女の魂を男のそれよりも下にお造りになられた」)というフレーズが旧約聖書に基づくものであることは明らかだが、「60〜70年代ロック音楽の歌詞におけるミソジニーの系譜」を調べてみると意外と面白いかもしれない。

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