ビートルズを翻訳する(6):「我思フ、(故ニ)我異ヲ唱フ」



我請汝随行 故我行苺畠 何一現実無 何一拘束無 永続的苺畠

さぁカウチに寝て楽になさって下さい 目を閉じて 広い広いどこまでも続く 苺畑を思い浮かべて下さい あなたはそこに私と一緒に行くのです 何一つ現実ではありません 何一つ執着するものもありません 果てしのない苺畑が広がっているだけです 目を閉じたまま生きていけたら どんなにか楽でしょう、ねぇ先生 ふふっ、あんたに見えているものを全部取り違えたりしてね そりゃあ一角の人物になることは難しくなるけど それでもこの世は万事うまくいってるじゃないですか まぁ、そんなの 僕にとっては どうでもいいことなのだけれど さぁもっとリラックスして下さい 広い広いどこまでも続く 苺畑を思い浮かべるのです あなたはそこに私と一緒に行くのですから 何一つ現実ではありませんよ 何一つ執着するものもありませんよ 果てしのない苺畑が広がっているだけです さぁもっとあなた自身のことを話して下さい 我思うに 何人も我がツリー内にはおらず (ちょっと待って下さい、その「ツリー」って、「ファミリー・ツリー」のことですか?) ん?だから僕が言いたいのは ツリーって高いか低いかのどっちかじゃなきゃならないってことで... つまりね、わかるでしょ先生、こんな風に あんたは僕の出す電波に全くチューン・インできないんだけど それでも世の中って不思議に万事うまくいってるじゃないですか すなわち、我思うに それはそれでそんなに悪くはないんじゃないかと あなた、分析に抵抗していますね 困った人だ もう一度やりましょう さぁ広い広いどこまでも続く 苺畑を思い浮かべて下さいよ あなたはそこに私と一緒に行くのです 何一つ現実ではありませんよ 何一つ執着するものもありませんよ いいですか 果てしのない苺畑が広がっているだけですよ さぁもっとあなた自身のことを詳しく話して下さい そうねぇ、いつも − じゃないけど ときどきなら (音楽聴いたり詩や小説読んだり映画見たりとかすると、不覚にも)

「あ、これって僕じゃん!」

とか

「これが(本当の)私だ!」

って思うこともあるのね だけど − それって結局 夢の中でときどき

「あ、これは夢だ!」

って分かる場合があるのと同じだと思わない? であるからして あんたの質問に対して 「あー、いいえ、そうじゃない、と思います」 と言おうが 「ていうか、あー、はい、そうだ、ってことです」 と言おうが いずれにしろ全て間違いなんだよね 要するに 「我思う、(故に)我在り」をもじって言うと

「我思う、(故に)我異を唱う」

ってこと

我請汝随行 故我行苺畠 何一現実無 何一拘束無 永続的苺畠 永劫的苺畠 苺畠永遠也

Let me take you down, 'cause I'm going to Strawberry fields Nothing is real And nothing to get hung about Strawberry fields forever Living is easy with eyes closed Misunderstanding all you see It's getting hard to be someone, but it all works out It doesn't matter much to me Let me take you down, 'cause I'm going to Strawberry fields Nothing is real And nothing to get hung about Strawberry fields forever No one, I think, is in my tree I mean, it must be high or low That is, you can't, you know, tune in, but it's alright That is, I think it's not too bad Let me take you down, 'cause I'm going to Strawberry fields Nothing is real And nothing to get hung about Strawberry fields forever Always, no, sometimes, think it's me But, you know, I know when it's a dream "I think, er, no", "I mean, er, yes", but it's all wrong That is,

"I think, (therefore) I disagree"

Let me take you down, 'cause I'm going to Strawberry fields Nothing is real And nothing to get hung about Strawberry fields forever Strawberry fields forever Strawberry fields forever (Cranberry sauce)

訳者付記

遂に大物登場。この歌詞を訳すのはホンっト難しい。たかがポップ音楽の歌詞なんだからそんなわきゃねだろうよ、などという人は、結局その他の歌詞も全然読めていないのだっ(断言)。"All you need is love" の歌詞はまだしも「分かりやすい」コジツケ解釈が可能だったけど、この歌詞はホント「何言ってんの?ワケ分かんねぇ」の連続。言うなれば、この「詩」自体が、読者の安易な解釈に抵抗しているっちゅうワケですよ。

特徴的なのは、"I think"、次いで"I mean"が多用されていること。これらは、えっと、そのう、あのう、だからぁ、何て言うかぁ、んーと、そうだなぁ、あのね、つまりねぇ、言うなれば、などなどの「口ごもり」、「言い淀み」を表している。

この詩を何度も何度も読み返した結果、"That is, I think I disagree" って台詞はもしかして "I think, therefore I am"(「我思う、故に我あり」)を参照しているのではないか、と思いついたので、"I think, (therefore) I disagree" と "therefore" を挿入し、これを「我思フ、(故ニ)我異ヲ唱フ」と訳してみた。そしたらですね、この歌詞全体が「精神分析への抵抗」を示しているように思えてきたので、思い切って、"Let me take you down..."で始まるサビの部分は分析医の台詞として、それ以外は被分析者(患者)の台詞として解釈してみた。そうすると...。何だか 往年の岩谷宏風の「訳詞」みたいになってしまった。ていうか岩谷さんの過去の「作品」の多くは「訳詞」というより「連想詩」だったよな...。だがここで「作品」という言葉を使うのは正しくない。岩谷さんにしろレノンにしろ、彼らが過去にやむにやまれぬカタチで生成してきたナニゴトかを今になって高みから振り返って、それらを「作品」や「仕事」などという言葉で総括するのはまったくもって正しくない。そんなことをしたら、おそらくご本人たちは「私がこれまでヤってきたことはすべて私自身の世界の一部である。それを作品だとか仕事だとかいう言葉でもって私の世界からは切り離した上で、てめーらが好き勝手に操作可能または鑑賞可能な何らかのオブジェクト=対象=死体としていじくりまわすのは金輪際やめろ!」とか言うだろう。

ちなみに、日本版『マジカル・ミステリー・ツアー』に同梱されていた歌詞カードでは、"Strawberry Fields Forever" の問題の箇所の原文聞き取りは次のようになっていた。


Always, no sometimes, think it's me
But you know I know when it's a dream
I think I know I mean "ah yes, but it's all wrong"
That is, I think I disagree

これに対応する訳(対訳: 奥田裕士)は以下の通り。

いつも、いやときどきだな、それがぼくだと思ってほしい
でも知っているね、それが夢ならばぼくにもちゃんとわかってる
ぼくにはわかっていると思う、つまり「イエス」ってこと、でも全部まちがってる
つまりぼくは、そうじゃないと思っているんだ

何言ってんの?てな感じの日本語だけど、原文がそうなんだからしょうがないわな。

今回使用した聞き取りは、映画「Imagine: John Lennon」のサントラ盤に添付されていた歌詞と思しきものであり、問題の箇所は以下の赤字の通り(ただし、二重引用符は私が追加したものである)。こっちの聞き取りの方が断然面白い。なぜなら、こっちだと一人称の話者である「僕」("I")が、他者(分析者)による解釈に対して「Yes/No」で応答(即答)することについて「抵抗」を示していることが明らかだから。


Always, no, sometimes, think it's me
But, you know, I know when it's a dream
"I think, er, no", "I mean, er, yes", but it's all wrong
That is, "I think I disagree"

これをやや直訳気味に訳すと以下のようになる。

いつも、じゃなくて、ときどき「それは僕だ」って思う
でも、君にもあると思うけど、
僕には(夢を見ている最中に)「これは夢だ」って分かる時がある
だから、「あー、ノー、だと思います」だろうが
「ていうか、あー、イエス、ってことです」だろうが
いずれにしろ全て間違いなんだ
要するに、「我思う、我合意せず」ってことさ

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